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東京高等裁判所 昭和49年(行コ)66号 判決

控訴人

河野豊信

右訴訟代理人

木戸喜代一

外三名

被控訴人

木更津市農業委員会

右代表者

橋本金次

右訴訟代理人

滝口稔

外四名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取り消す。本件を千葉地方裁判所に差し戻す。」との判決を求め、被控訴代理人は、主文第一項と同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張、証拠関係は、次に付加訂正するほかは、原判決の事実欄に記載のとおりであるから、これを引用する。

控訴代理人は、

一、本件訴が認容されれば、さきに買収無効確認訴訟で控訴人は敗訴したとはいえ、さらに買収不存在確認の訴を提起しうる地位が認められるし、また右買収無効確認訴訟に対する再審の訴が提起できる。すなわち、(1)本件土地が既墾地であつたという攻撃・防禦方法の提出が妨げられたということを理由として(民訴法四二〇条一項五号)、および、(2)判決の基礎となつた行政処分がのちの判決によつて変更されたということを理由として(同条一項八号)、再審の訴が提記できるのであるから、本件訴の利益がある。

二、さらに、本件訴が認容されれば、被控訴人はさらになんらかの処分をしなければならない拘束を受け(行政事件訴訟法三三条)、これによつて控訴人は権利救済の目的を達することができる。この処分は、通常違法とされた不作為の時点に立ち戻つて行政手続を開始すべきであるが、原判決の見解のように、買収無効確認の判決が確定した以上これに反する処分ができないという立場に立つた場合でも、行政庁たる被控訴人はなんらかの処分をしなければならないのである。行政事件訴訟法三七条の訴は、行政救済の目的を全うするという観点からだけではなく、行政権と司法権との分離を認めている憲法の建前に照らし行政庁によつて侵害された国民の権利を救済しようとするものである。判決の既判力の効力から、行政庁がその効力に拘束され、そのため訴訟によつて本来の行政救済の目的を達することができないときは、違法行為に基づく損害の賠償をすることによつて国民の救済をはかることもできるのである。従つて、既に確定した処分をくつがえさせねばならないということはない。これを要するに、行政庁がなんらかの処分をしなければならない拘束を受けることによつて一応の救済の目的を達することができるのであり、行政庁がどのような処分をするかは問わないのである。このように、行政庁が処分をしなければならない拘束を受けることにより、本件訴には訴の利益がある。

三、原判決七枚目表一〇ないし一一行目に記載の東京高等裁判所昭和三八年(ム)第九号事件については、再審の訴を却下する旨の判決の言渡しがあり、これに対する上告事件については、昭和四八年中に上告棄却の判決があり、既に確定している。

と陳述し、

被控訴代理人は、

一、千葉県知事が昭和二四年九月九日本件各土地の所有者に買収令書を交付して買収処分をしたことは、甲第一号証によつて明らかであるから、形式上買収処分が成立しており、これが不存在であつたということはできない。

二、仮に本訴が認容されたとしても、これにより右買収処分無効確認訴訟の確定判決に対する民訴法四二〇条一項五号後段の再審事由になると解することはできない。また、木更津市農地委員会の買収計画に基づき、千葉県農地委員会の承認、千葉県知事の買収令書の交付という一連の手続が完結し、前訴の確定判決により、右買収処分の有効であることが確定し、買収の効果が発生しているのであるから、被控訴人は右買収処分の基礎となつた買収計画を取り消すことはできず、控訴人が本訴を認容されたことにより同条一項八号に基づく再審の訴が許されることになるとはいえない。さらに、仮に被控訴人が右一連の手続が完結後、しかも前訴の確定料決により右買収処分が有効であると確定しているのに、その基礎となつた買収計画を取り消したとしても、これにより有効と確定した右買収処分が遡及的に失効するものではないから、控訴人は本訴が認容されても、右法条によつて再審の訴を提起できないといわなければならない。なお、控訴人が仮に右買収処分の基礎となつた買収計画に対し異議の申立をしており、被控訴人がこれに対し決定はしていなかつたとすれば、控訴人は本訴は提起するまでもなく、このことは前訴において右買収処分の無効事由として主張できたのである。しかるに、民訴法四二四条三項所定の再審の訴の出訴期間経過後に本訴を提起し、これにより再審の訴が可能になるものではない。

三、仮に控訴人主張の異議の申立に対する決定がなされていなかつたとしても、既に爾後の買収手続が進められ、右買収処分が完結しているのであるから、実質的には異議申立に対する行政庁の応答がなされているから、このような場合の救済手続としては、最終処分たる買収処分においてその違法を争うべきである。前訴の判決が昭和三三年六月一九日上告却下により確定し、その後昭和三七年一〇月一日行政事件訴訟法が施行されて不作為違法確認の訴が立法上認められたので、控訴人は本訴を提起したものであり、右のとおり、最終処分たる買収処分につきその違法を争うことができたのであるから、本件事案のような場合に、不作為違法確認の訴の利益が認められなかつたとしても、国民の権利の救済を目的とする同法の立法の趣旨に反するということもできない。また、本訴を認めなければ、控訴人が国に対して損害賠償を請求することができないというものではない。

と陳述し、〈以下略〉

理由

一当裁判所は、控訴人の本訴は訴の利益を欠き、これを却下すべきものと判断するが、その理由の詳細は、次に付加訂正するほかは、原判決の理由欄に記載のとおりであるから、これを引用する。

原判決八枚目裏九行目の「証人大野峯之」とあるを「証人大野峰之」と訂正する。

二控訴人が当審でした前記主張一について判断する。

本件においては、控訴人は、未墾地買収計画に対する異議申立に対する処分をしないことの違法確認を求めているのであるが、この違法確認の本案についての判断を求めうるためには、その前提として本件訴が訴の利益を有する場合でなければならない。ところで、買収計画の樹立、その承認、買収令書の交付という買収のための一連の手続においては、それら一連の手続は買収という最終目的に向けられた行為であるから、その目的たる買収が有効であるという判決が確定した以上、その前提たる手続である処分についてはもはや争いえないものと解するのが相当である。仮にその前提を争うことができると解したとしても、関係行政庁は右判決に拘束され、判決に反した行政処分をすることはできないのである。従つて、いずれにしても、前提たる処分の効力を争う訴は、訴の利益を欠くものといわなければならない。

これを本件についてみるに、控訴人は、本件各土地についての買収計画に関し異議の申立をしたのに、これに対し被控訴人がなんらの処分をしないことの違法であることの確認を求めるものであるが、本件については、右買収計画に基づく買収処分の有効であることが判決によつて確定しているのであるから、前説示に照らし、本件訴は訴の利益を欠くものであることは明らかである。

控訴人は買収不存在確認の訴を提起するためないし再審の訴を提起するため本件訴は訴の利益があるというも、本件買収につき買収不存在確認の訴が提起できるか、再審の訴を提起することができるかは、本件訴の帰すうとは全く関係なく、それらをもつて本訴の訴の利益があるという控訴人の主張は採用できない。

三次に、控訴人の同主張二について判断する。

不作為の違法確認の訴は、行政庁が申立に対し応答しないすべての場合に提起できるのではなく、その訴が利益のある場合でなければならない。本件買収につき控訴人が損害賠償請求権を有するか否かは、本訴とは直接関係のないことであり、それをもつて本訴の訴の利益ということはできない。従つて、控訴人のこの主張も理由がなく、採用できない。

四そうすれば、控訴人の本訴を却下した原判決は相当で、控訴人の控訴は理由がないから、これを棄却すべきである。そこで、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(満田文彦 鈴木重信 篠原幾馬)

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